東京高等裁判所 昭和58年(ネ)1942号 判決 1984年2月14日
控訴人 佐藤茂夫
被控訴人 株式会社常陽銀行
右代表者代表取締役 青鹿明司
被控訴人 青鹿明司
被控訴人ら訴訟代理人弁護士 黒沢克
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
一、申立
1. 控訴人
控訴人は、当審における口頭弁論期日に出頭しないが、陳述したものとみなした控訴状には、控訴の趣旨として次のとおり記載がある。
(一) 原判決を取消す。
(二) 被控訴人らは控訴人に対し、連帯して、八八万五〇〇〇円及びこれに対する昭和五二年六月六日から支払済まで年五分の割合による金員の支払をせよ。
(三) 被控訴人らは控訴人に対し、日本工業規格B列四番の用紙に原判決添付別紙「謝罪文」記載のとおりタイプライターで打ち出し、それぞれ押印した謝罪文を交付せよ。
(四) 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
(五) 仮執行の宣言
2. 被控訴人ら
主文第一項同旨
二、主張
当事者双方の主張は次に付加する(控訴人については控訴状の記載を擬制陳述)ほかは、原判決事実摘示中「第二 当事者の主張」のとおり(ただし、原判決三枚目表二行目末尾「の」とあるを「旨の」と訂正する。)であるから、これを引用する。
1. 控訴人
(一) 被仕向銀行バンカーズ・トラストは、被控訴銀行が予じめいくつか指定してあった海外送金契約銀行の一つであって、控訴人はそのなかから右被仕向銀行を選定させられたものである。したがって、同銀行が本件通知をしなかったことについては被控訴銀行にも責任がある。
また、本件通知をすることは、控訴人と被控訴銀行との送金契約の内容となっているものであり、控訴人とバンカーズ・トラストとの契約ではなく、かつ、控訴人は、右通知をする者として、バンカーズ・トラストを指名したこともない。したがって、本件通知がされなかったことについては、被控訴銀行に責任がある。
(二) 本訴請求を控訴趣旨(二)のとおり減額する。
2. 被控訴人ら
(一) 控訴人の当審における主張(一)は争う。
(二) 控訴人の請求の減縮に同意する。
三、証拠関係<省略>
理由
一、当裁判所も控訴人の本訴請求は理由がないものと判断する。その理由は、次に付加するほか、原判決理由説示と同一(ただし原判決一六枚目表七行目の「振出人」とあるのを「振込人」と訂正する。)であるから、これを引用する。
送金委託契約に基づいて送金がなされる場合には、送金依頼人とその委託を受けた仕向銀行との関係、仕向銀行とその送金支払委託契約に基づく被仕向銀行との関係は、それぞれ別個の委任契約関係であり、送金依頼人と被仕向銀行との間には直接契約関係はなく、復委任の関係にあり、民法一〇五条の復代理に関する規定を類推適用すべきものと解するのが相当である。
<証拠>を総合すると、控訴人は、米国弁理士をして金員を受取らしめるため、被仕向銀行としてバンカーズ・トラストを指定し、同銀行の右米国弁理士の口座番号を特定し、同口座へ振込む方法による送金を委託し、その際、受取人に対する通知をなすことをも依頼したこと、被控訴銀行はこれを承諾して、バンカーズ・トラストに対し、受取人の右口座へ入金し、かつ、入金の通知をすることを委託したこと、バンカーズ・トラストは、昭和五〇年四月三日及び同月一七日右約旨に従って右受取人の口座に入金したことがそれぞれ認められ、ほかに右認定を覆すに足りる証拠はない。
控訴人の右指定は、民法一〇五条二項の指名に当るものと解すべきものであるところ(それが、予じめ被控訴銀行の指定した数銀行のなかから控訴人が選定したものであっても同じである。)、被控訴銀行において、バンカース・トラストが被仕向銀行として不適任又は不誠実であることを知りながら、これを控訴人に通知し又はこれを解任することを怠ったことについては、これを認めるべき証拠はないから、被控訴銀行の責任を問うことはできない。
二 よって、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条に従い、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 鈴木重信 裁判官 下郡山信夫 加茂紀久男)